私の中のワタシを忘れるために

錠剤は一粒ずつしか飲み込めない人が書くブログ。

ジャストサイズのガラスの靴

注意:この記事は以前、プライベートな場所に書き記していたものですが、もう時効なので公開します。

それでは、どうぞ。

 

 

宇宙の仕組みがわかってくると、人が発する言葉でその人の内側に隠れている、あるいは隠しているものがどんなものかが見えてくるものです。


個人的な話をしますと、わたしは美容師をやっており、昔まだ若い頃に合コンや飲み会に参加していた頃、「美容師をしてます」と云うと必ずと言っていいほど「じゃ、俺の髪今度切ってよ!」という返しがあり、つまりはその言葉の真意を探れば、「俺の家で髪切ってよ!そしてセックスしよう!」というワケだったようです。


いまやいい歳になり、そういった〝若者のノリ〟に遭遇することもほぼないのですが、最近ひょんなことで自分より10程も歳下の若者に誘われることがあり、まぁご飯くらいならと思ってお誘いに乗ったわけです。


彼の住まいが繁華街からわりと近くだったため、お店を選びやすいだろうと思い、そちら方面で待ち合わせをしました。
予め私はお肉があまり得意ではないことを伝えていたのにもかかわらず、牛肉しか出さないようなお店に連れて行ってくれた(というか、彼が行きたかっただけ)けど、あいにく人気店で長蛇の列だったため、他にしようとその場を離れました。

近くには居酒屋やご飯屋さんもたくさんあって選び放題だったのに、彼はそこからまた少し離れたチャンポン屋さんに行こう!と言い出しました。


この時のわたしの脳内はどういうふうになっていたかと言いますと、

「チャンポンかぁ。すぐ時間おわるなぁ。食べたあと何するんやろ。まぁ、どこも行かんなら帰ればいいか。」

みたいな感じでした。 わたしの勝手な予定では、居酒屋でちびちび食べながらおしゃべりして帰る、という感じでしたが、大幅にズレてきました。


チャンポンを食べていると、彼がおもむろに「この店、いっこ前の彼女と別れる原因なんだよね。」と言い出したのですが、実は店に来て何となく見覚えがあったのは間違いないようで、わたしも少し苦い思い出がある店だったのです。
この一見見逃しそうな小さな符合は、見えない何かからの確かなサインだということを、わたしは自分の中で確かめながらそっとポケットにしまうのでした。


「ドンキに行きたい」と彼が言い出したので、「いいよ、行こう。」と内心ホッとしながらチャンポン屋さんを後にし、ドンキホーテに向かいました。
彼は「香水を買わなきゃ」と香水コーナーをぐるっと見ながら「いつもウルトラマリンなんだけど、変えようかな〜どう思う?」ときかれたので、「大人な香りにしたら?」と云いながらざっと見たところ、ドンキの香水コーナーにはもちろんジェントルマンな香りは置いてなく。「わたしはコレ使ってたよー」とプワゾン(ディオール)を指さすと「たかっ!」と言いながら、結局彼は手に持ったウルトラマリンをそのままレジに持っていきました。


ちょうどその日の昼間に会った友人が甘いバニラの香りを漂わせていたので、香水の話で盛り上がった会話を思い出しました。
わたしも友人も香りを大事にしていて、甘いウッディな香りが好みで、好きな人って匂いも関係あるらしいよ、という話をしていたのです。そして、「男の人で安っぽい香りしたら嫌だよね。サムライとか、カルバンクラインとか、あーゆう何の匂いかすぐ分かるようなやつ。」と話していたまさにその香りの中に、ウルトラマリンも含まれていました。
「何の匂いかわかる」ということは、その人の内面もそこにリンクしていると個人的には思っていて。いくら「俺は周りの奴らとはちがって特別なんだ、個性的だし、モテるんだぜ」と口では言っていても、その香水の〝選び方〟が本人の気づかぬところで内面をあらわにさせてしまっているのです。
そう、彼はものすごく自分に自信をもっていて、「今は特定の彼女は作らないけどモテる」だの、「今日会社の女の子に告られた」だのと聞いてもない武勇伝を次から次から教えてくれていたのです。
彼は「歳上の知的な人が好きだけど好かれるのはいつも歳下の頭悪そうで口悪そうなコばかり」と嘆いていたけれど、ウルトラマリンをつけるようならば……それは仕方ないよね。香水だけじゃないけれど、市場価値が伴っていないよ。
しょっぱなから歳上にはゴロゴロ甘えたらいいなんて思ったら大間違い。
わたしの友人でも歳の差カップルいるけど、歳上で賢い女を狙いたい男子は、8頼もしい所、2甘える、くらいがちょうどいいんじゃないかと思います。逆は男がヒモになり、女が主導権握るタイプかと思われる。


香水のくだりも然り、やはり早めに退散するべし。と思ったわたしは、ドンキを出た後彼を送り、両足のガラスの靴をしっかりと履いてるのを確かめながら12時の鐘が鳴る前に家路へ向かうのでありましたとさ。