人は自分の見たいものを見る
むかしむかしあるところに、ひとりのおっさんがいました。おっさんは長い布をひらひらと纏い女子高生のプリーツスカートみたいなものをはくという、一見すると警察に注意されそうな格好をしていました。
おっさんは、そんな女装まがいな格好をしながらも、偉そうなことを言って人々を支配していました。
おっさんは偉そうなことを言いながら、人々を支配しているくせに、女ったらしでした。
そんな、女装まがいな格好をした偉そうな女ったらしのおっさんのことを、人々は「古代のヒーロー」と呼びました。
またの名を、ジュリアス・シーザーと申します。
「人間は自分の見たいと思うものしか見えていない」みたいなことを、このおっさんは残してとうの昔にこの世を去っておるのですが、先日わたしは「これこそまさに」とおもう現場に遭遇いたしました。
仕事を終えて、ラーメンを食べて帰ろうと思い、車を走らせていたときのことでございます。
ちょうど信号まちの先頭に車を止めておりますと、左後方から一台の自転車に乗った青年がシューっとやってきて、わたくしの左前方に止まりました。
何気なくその青年を見ていると、それはまさしく映画『8マイル』で黒人ラッパー相手に想いをライムにのせてバトルするエミネムのように、いろんな所をチャッ、チャッ、と指差し、なんと言ってるかはわからないものの、確実に口がもぐもぐと動いておりました。
彼は何が見えていたのでしょう。彼のステージにもし壁がないのだとしましたら、バトルのスケールはエミネムの比どころではございません。
「俺のステージは地球だ。」
そのような声が聞こえなくもなかったように思います。いや、正直に申し上げますと、そのようなことは一切聞こえてはきませんでした。
またあるとき、以前わたくしが勤めていた美容室での出来事になります。
当時わたくしはまだぺーぺーの見習いで、主な仕事が掃除洗濯洗髪のみだった頃。ある先輩のお客様のヘルプを担当しておったのですが、そのお客様をもうすぐ洗髪するという段になり、タオルで頭を包んでいたまさにその時。
『あそこに人がおる。コッチを覗いとる。』と、そのお客様が床を指差して言い出しました。
もちろん、店内の床下に隠れ家など御座いません。
当時、今よりもずっとピュアだったわたくしは、「え?どこにですか?」と真剣に聞いてしまいました。
するとそのお客様が突然バッと立ち上がり、『おまえぇ!どこ見○☆∇∴…‼︎‼︎‼︎』と叫び出すではありませんか。
シー、、、、、ン。。。
店内は一瞬にしてフリーズしました。
彼女の見た床には、誰かがジッと覗き見していたのでしょう。そんなことより、立て込んで忙しい店内を少しでも早く回したかったわたくしは、
「では、シャンプーしますね〜、シャンプー台へどうぞぉ〜〜」
と彼女をシャンプー台へと誘導しましたとさ。
めでたし、めでたし。
『人間は自分の見たいものを見る』
これをトリックに使ったサイバー犯罪映画、『ピエロがお前を嘲笑う』。ストーリーのテンポもよく何杯も喰わされて、ムダのないスッキリと楽しめる作品です。