気持ち悪いラブホの話
以前恋人Tと付き合っていた時の話。
出かけた先で泊まろうということになり、土地勘のない場所だったためグーグルマップ先生に探してもらい、いくつか出てきた中から一番キレイそうな場所をめがけた。
もうほんの目の前で、すぐ着くという距離だったのに、Tのほうが「コッチもあるじゃん。こっちは?」と言ったのだが、こういう時の私の勘は鋭く、出来れば最初からめがけていた方に行きたかった。
けれどもここは一応全否定せずに、彼に対して歩み寄った。
「じゃ、とりあえず行ってみよ。空いてなかったら最初のほうにしよ。」と言い、私たちは予定してなかった方のホテルへと入った。
とりあえず車をとめロビーに向かうと、入り口に盛り塩があった。
「盛り塩、、、」
鈍感な彼も流石に気付いたらしく、思わず口に出ていたが、スルーしてロビーに入った。
自動ドアが開いた瞬間、なんとも言えない匂いが鼻を突いた。
カビくさいような、湿り気のある、私の中ではとりあえず「ヤバイ匂い」の部類に入る。
部屋はたまたま三つ程空いていたのだが、Tはあんまり考えずに即決するクセがあり、その時も「どこにする?」と聞いたかと思ったら「ここでいいね!」と、ぱちーん!とボタンを押し、勝手に決めてしまった。
それと同時に私はイヤな予感しかしなかった。
選んだ部屋についた。
ドアを開けても電気がまったく付かず、入り口付近にもスイッチらしきものはない。
「え?何で電気つかんの?」
もうここいらから心臓が暴れ出し、とにかくヤバイ感じしかしなかった。
仕方がないのでTがスマホのライトで部屋を照らすと、入ってすぐ左手にはわりと広めで真ん中にポツンとそれ用の椅子が置かれたSM部屋だった。もうあんまり覚えてないが、恐らくコンクリートっぽい壁でグレーの牢屋みたいなつくりだったと思う。
「もう出たい。ムリ!」
私はすぐに精算機のボタンを押した。
結局電気のスイッチは部屋の一番奥にあったベッドの頭元にしかなく、そうこうしているうちにフロントから電話が鳴った。
二人とも奥に行くのに躊躇するほどに部屋は暗く、私は絶対に行きたくなかったので、勿論Tに行ってもらった。
「あのですね、電気がつかないのでやっぱり他の部屋に変えたいんですけど…」
と言うTの後ろから、
『そんな言い訳いいからとにかく出ますって言ってよ!!』と急かすワタシ。
フロントも分かっていたのか定かではないが、幸い料金も取られずそのまま、その部屋は脱出することが出来た。
急いで車に戻った私たちは、すぐに最初から決めていたホテルに移動した。
そっちの方はまだマシだった。
マシだった、というのは、やっぱりそこも私には「ヤバイ感じ」がしたけど、他に移動する気力もないし気をごまかしながらその日を過ごした。
洗面所の横の、腰の高さにあったモンステラの絵が、いまだに忘れられない。