私たちのバンドメンバー募集珍道中
過去記事で少しだけバンドを始めた時の話を書いたが、実はその後もいくつかちょろっとずつバンドを組んだり加入したりしては、いろいろとめんどくさくなって辞める。というのを繰り返していた。
ある時、仲のよかった友人Rから「ちょっと、とあるバンドにボーカルとして入るかもしれなくて、そのバンドの練習に一度見学に行くようになったからついてきてほしい」と言われた。
Rはボーカルとして、私とは別のバンドでまぁまぁ本格的に活動をしていたのだが、メンバーの都合などよくある理由でそのバンドでの活動が徐々にフェードアウトしたところに、その見学の話が来たのだった。その辺はよく覚えてないが、そんな感じだったと思う。
友人Rとのご飯食べがてら、話によるとわりとオジさんの3ピースバンドの見学へ付いて行くことになった。
ボロボロの倉庫のようなスタジオに着くと、予想以上に若さのないちょっと小太りのオジさん(ドラム)と、ゆかいな仲間たちが出迎えてくれた。Rはどう思っていたか私にはわからなかったが、そのメンツを見た瞬間、直感で「これはダメだ」ということだけは確実にわかった。
最初にそれぞれの自己紹介をちょろっと済ませ、どんな音楽をやってるかとか、練習は何曜日だとか、一通りの情報を与えられ、「まぁ、とりあえずどんな感じかやってみるから見てて」と言われ、小太りなオジさんとゆかいな仲間たちは演奏を始めた。
その間私は、壁のシミをずっと眺めていた。
とにかく話がもたなかったのだろう、何気にRが「この子もベース弾くんですよ」と言い出した。
(そんなこと言ったら弾いてみてとか言うじゃん!!)と心の中で「勘弁してください」と祈りつつも、神に見捨てられた私に向かって小太りのオジさんが、「じゃ、ちょっと弾いてみてよ。ベース、貸してやって」と、ゆかいな仲間のベーシストオジさんからベースを渡された。
しぶしぶ渡されたベースをからげ、ベンベンと音を出してみるが、ちょっと、これ、めっちゃチューニングずれとるやん!!あのオジさん、このまま弾いてたのか。
と思いながら勝手にチューニングしなおし、記憶が定かではないが、確かラモーンズかダムドかその辺を一曲合わせたような気がする。
意外と小太りオジさんにウケがよく、「あ。やっぱベース弾くの面白いな」ということだけ確認して、私たちはそそくさとおいとました。
後日。Rにその後の状況を聞くと、「あの後ベースが失踪したんだって。だから私たち二人ともバンドに入ってって言われたけど断った。」という返事が返ってきた。
やっぱりね。
私たちのバンドメンバー探しの珍道中はここで終わらない。
「もう、一緒にしよう。そしてメンバーを探そう。」ということになり、R(ボーカル)と私(ベース)に共通の男友達T(ドラム)を誘い、あとギターがいるね、ということでギターを探していると、Tが募集したところに連絡が来たらしく、北九州のとあるジョイフルで全員で会うことになった。
私たち三人はTの運転する車に乗りこみ、約束の時間より若干早く着いたので、相手が来たら分かりやすいように入り口付近で待つことにした。
すると、「着きました」という連絡が入った。
だが、それらしい人物は見当たらず、赤ちゃんをベビーカーに乗せたバドミントンクラブ帰りのような中年の女性がこちらへ向かってくるのが見えた。
「この人じゃないよね。」と、三人ともが心の中でつぶやいたのが聞こえたが、女性は私たちに向かって「こんばんは」と声をかけてきたのだった。
その時点で三人の意思はおそらく決定していたが、とりあえず中に入り、私たちは四人掛けのテーブルの片ほうに三人でぎゅうぎゅうに座り、向かいにギター(仮)の女性と子供が座るという、はたから見ると異様な光景に収まった。
もうあまり話を聞くまでもなかったのだが、仕方なく私たちはギター女性の話を伺うことにした。ちなみにギター女性は中年ではなく、私たちよりもずっと若いレディだったのだ。すまん、中年って言って。
席に着き、それぞれとりあえず何か注文しようということになり、そのギター女性は子供にパンケーキを頼んであげた。どう見ても「もうパンケーキあげていいの?」という年頃だったのだが。
するとギター女性はパンケーキが運ばれてくるなり、手でちぎりながら子供の口に詰め込みはじめた。まるで、わんこそばのように。
「えぇっ??!!」
私たち三人は、始終、心の声が通じ合っていた。
それからなんの話をしていいか戸惑った私とRは、もうバンドに何も関係のない、女性の旦那の年とか、子供のこととか、愛想笑いを挟みながら場を盛り上げるという半ば罰ゲームのような空気が流れつつ、その間Tは一言も喋らずひたすらじっと身をかがめていた。
わんこパンケーキも終わり、ではそろそろ出ましょうかと促し、「とりあえずまた連絡しますね」とかなんとか言いながら、私たちはジョイフルを後にした。
ジョイフルという楽しそうな名前とは裏腹に楽しさのひとカケラもなかった私たちは、車に乗るや否や「なんて言って断るか」という議題と、一言も言葉を発しなかったTに文句を言いながら帰ったのであった。