私の中のワタシを忘れるために

錠剤は一粒ずつしか飲み込めない人が書くブログ。

綾小路きみまろエクステ

ひと昔前。ヘアスタイルの流行りは、いまのボブブームが定着するまだずいぶん前のこと。
中島美嘉がウルフカットにしたのをキッカケに、トップ短め、襟足しょろしょろのウルフスタイルを注文する人が多くいた。

こんな感じ。
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最近流行りのインナーカラーもこの頃と同じ頃にも流行っており、襟足だけ色を変えて遊ぶ人もいた。

当時私が勤めていた美容室は、40代半ばの女性オーナー、私、一つ下の女性スタッフの三人の、田舎の個人店。基本、年配のお客さんはオーナーが担当し、若い人が来ると私かもう一人の女性スタッフが担当するという、暗黙の流れが出来上がっていた。

ある時私も女性スタッフもすでに仕事にはいっており、オーナーだけが手が空いていた所に、飛び込みのエクステのお客さんがやってきた。

ぶっちゃけ、エクステを実際施術した事があったのは私だけで、それまでは私がいつも担当していたので、その時もそのつもりだったのだが、何故かオーナーが担当し始めたのでその様子をそっと横目で見守りながら、とりあえず自分の担当中のお客さんを仕上げていた。

エクステとは、人毛の毛束を地毛の根元に編み込んだり専用のボンドを使って付けていき、地毛をなかなか伸ばせない女子達が一瞬でロングに出来る、魔法の技術である。正式にはエクステンションという。
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今は様々な種類のエクステの付け方があるが、その頃は四つ編みか三つ編みで付ける方法が主流で、ただやみくもに付ければいい訳ではなく、毛束を編み込む場所の地毛の量や、編み込む場所(デザイン力)がとても重要で、少しでも間違えると毛束が浮いたり地毛と馴染まなくなったりする。
とても地味な作業だが、技術と気力を大いに要する。

自分の仕事を終わらせた私は、オーナーが担当するエクステのヘルプに入った。

その時のお客さんの元々のスタイルは普通のわりとボーイッシュなショートで、地毛の長さ的にはギリギリ5センチあるかないか。
当然、エクステを付けるには上からかぶせる長さが必要になってくるので、もし私がこのお客さんに最初から入っていたら、多分ちゃんと説明して丁重にお断りしていただろう。

だがオーナーはそんなことも構わず、テキパキと付けだした。
まずオーナーが地毛を分け取り、私が人毛毛束を持ち、四つ編みで付けていくのだが、何を思ったのかオーナーはかなりアバウトに2センチ(或いはそれ以上)四方の地毛の束をざざっとすくいとった。
ベースとなる地毛の面積は1センチ×1センチの四角を超えることはあり得ないのに、だ。

私は横からオーナーの手や頬を思いっきり引っ叩きたい気分になったが、オーナーにもプライドがあるだろう。お客さんに向けて心の中で念仏を唱えながら、ぐっと歯を食いしばって堪えるしかなかった。

オーナーのデザインに従い、私は毛束を差し出し、編み込むという作業を繰り返し、オーナーはある程度付け終わった段階で「何かがオカシイ」という空気を存分に醸し出しながら、最終チェックをしていたが、最終チェックどころか、もう最初からやり直さないと絶対おかしいレベルのウルフスタイルが出来上がった。

それは例えるならばこれとか、
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これとかの
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もっとヒドくした感じだった。


もちろん若い女子が納得するはずもなく、私たちはそれまで勤めていて一番の怒り様を見ることになった。

どうしょうも出来なくなった頭のまま帰るのは嫌だっただろう(当たり前だが)、若い女子は結局すべて外して帰っていった。

私もオーナーのエクステに対するイメージをそのままにしておくのは気が引けたので、「地毛のベースは小さめに取らないと馴染まないんですよ」とだけ伝えると、なんともバツが悪そうな顔をしていた。


「カツラをとって見せるのは、パンツを脱ぐより恥ずかしいです。 パンツを脱いだら毛が出てきますが…カツラは逆です。」綾小路きみまろ